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環境めがねで見てみようVol.1 | 藤田 成吉さん

昔話「花咲か爺さん」編

2010.12.1 UP

昔話というとあなたは何を思い浮かべますか。子どもの時に聞いた昔話や子どもにいま読んで聞かせている昔話のこと、なかには囲炉裏端の記憶、お母さんやお祖母ちゃんの膝の上の温もり、紙芝居、アニメなどもあるかもしれませんね。このように昔話は世代を超えて様々なところで語り継がれ、楽しまれてきたエンターテイメントと言えるでしょう。
さて、昔話は何だか荒唐無稽な物語のように見えますよね(これも面白さの一つですが)。でも、採集狩猟や伝統的な農耕牧畜生活に深く根ざした昔話の中には、自然と付き合う大切な知恵の数々がシンボリックに表現されたものも少なくありません。さあ、どんな知恵が隠されているか。皆さんも一緒に〈環境めがね〉を掛けて、昔話に秘められた宝(知恵)探しのアドベンチャーを楽しんでみませんか。

3幕のドラマになっている「花咲か爺さん」

たとえば「三枚のお札」や「三年寝太郎」、「三匹の子ブタ」のタイトルにも見られるように、〈3〉は昔話の大事な数字と言われています。花咲か爺さんの場合は、物語の展開が3幕のドラマ仕立てになっています。

この昔話は皆さんご存じでしょうから、ストーリーを追うのは簡単にしますね。まず第1幕、やさしいお爺さんの飼っていた白い犬がある日お爺さんを連れ出して「ここ掘れワンワン」。お爺さんがそこを掘ると宝物がザックザク。さて、お爺さんはどんなところを掘ったのかしら。環境めがねで見ると、後ろには里山が控え、近くに里川の流れる陽当たりのよい土地。宝物とは見事に育った農作物。つまり農耕に適した場所で、「掘る=耕す」だったのではないでしょうか。また、民俗学では白い犬は神(自然)のお使いと考えられています。“環境にやさしい”お爺さんは、自然からたくさんの恵みをもらったというわけです。

やさしいお爺さんは、自然の恵みを受け取る

では、意地悪爺さんはどうでしょう。欲に目がくらんで白い犬にどこだ、どこだと強要。苦しくてキャンキャン泣いたところを掘ると、出てきたのは石ころや塵芥。怒った意地悪爺さんは犬を殺してしまう。さて、白い犬はどこで泣いたと思います? 環境めがねを掛けると、陽当たりが悪く岩や石の多い地味の痩せた土地が見える。骨折り損の草臥れ(くたびれ)儲け、これは自然の営みを無視した報いですね。

第2幕。やさしいお爺さんは犬の亡骸を土に埋め、その上に小さな木を植える。すると木は見る見るうちに大きく育つ。その木で臼を作り、餅を搗く(つく)と宝物がザックザク。これは犬の体が土の中で分解され、木の根に吸収され、木が育つ、という自然の循環。臼から出てくる宝物は、樹木の様々な恵み(薪炭、木材、木の実、落ち葉、二酸化炭素吸収、酸素供給、木陰の憩いなど)を意味しているというわけです。他方、意地悪爺さんが搗く(つく)とガラクタばかり。目先の利益に惑わされ手当たり次第に木を切り倒し、裏山が崩れ土砂に襲われるシーンも見えてこないでしょうか。意地悪爺さんは怒って臼を燃してしまう。

さて、第3幕。やさしいお爺さんが臼の灰を貰って枯れ木に撒くと、枯れ木に花が咲く。通りかかったお殿様からご褒美をゲット。これを見ていた意地悪爺さん、無理やり灰をかき集めて撒くと、花が咲くどころか、お殿様に降りかかり大目玉。これは何を意味しているのでしょうか。やさしいお爺さんの灰は自然(白い犬)の循環から得られた草木灰(そうもくばい※1)、植物の根に効くK(カリウム)や花に効くP(リン)も豊富に含まれている。伝統的な焼き畑農業の効用をシンボライズしているとも考えられます。では、意地悪爺さんの灰は何を意味するのでしょうか。欲に目がくらみ昔から引き継がれてきた焼き畑の知恵(2~3年使ったら次に火入れし20~30年周期でリユースする)を忘れて無理な焼き畑を続けたため、ペンペン草も生えない荒地になってしまったということなのかもしれませんね。

この昔話はやさしいお爺さんが自然のサイクルにそって繰り返し恵みを受け取る“利再来 [リサイクル]”(好循環)と、強欲な意地悪爺さんが自然から繰り返しシッペ返しをされる“痢再来 [リサイクル] ”(悪循環)のドラマだったというわけ。「花咲か爺さん、枯れ木に花を咲かせましょ」のおそまつ、とっぴんぱらりんのぷう。

次号は「三枚のお札」です。請うご期待!


※1 草木灰(そうもくばい) 草木を燃やした後の灰。肥料等に使われる。

Prolile

  • 藤田 成吉(ふじた せいきち)
  • 藤田 成吉(ふじた せいきち)
  • 元東海大学教養学部人間環境学科教授。
    主な著書に『環境キーワードの冒険』(日報)、共著に『持続可能な社会のための環境学習』(培風館)、『地球市民の心と知恵』(中央法規)、『ビジネスと環境』(建帛社)などがある。(公社)日本アロマ環境協会(AEAJ)理事。