アロマテラピー検定・資格の認定、学術調査研究の実施

アロマの研究・調査

アロマテラピー学雑誌 Vol.9 No.1 (2009)

総説

精油の中枢薬理作用の研究と最新動向

著者名 梅津豊司
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)1-20 (2009)

 アロマテラピーが普及した当初は、その効能の科学的根拠のなさが指摘され、疑問視する向きも多かった。しかし、その後の研究が進み、植物精油に中枢薬理作用があるという科学的根拠が積み重ねられつつある。今日では、有力な代替療法としての認識も高まりつつあるとともに、植物精油が新たな薬剤開発のための資源となるのではないかとの期待も高まっている。本稿では、植物精油とその成分の中枢薬理作用に関する研究の国内外の動向を紹介し、また筆者の研究の成果を紹介する。

キーワード

アロマテラピー、向精神薬、行動薬理学、動物実験、中枢神経系

原著論文

産褥婦に対するアロマトリートメント効果の検討

著者名 猪野由起子 代田琢彦
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)21-29 (2009)

 産褥期の母親に対するアロマトリートメントの効果を生理的・心理的評価指標を用いて検討した。2000年7月2日~2005年2月25日の間にシロタ産婦人科に産褥期で入院中の母親438名(平均年齢29.5歳、SD+-4,16~44歳)に対し、産後8日目までにアロマトリートメントを行った。日本産植物精油3種(ゆず、もみとそれらの混合物)より対象者の志向で選ばれた1種をホホバ油30mlで1%濃度に希釈し、20分の背中もしくは下肢に対する軽擦法によるアロマトリートメントを行い、施術前後に自己記載式質問紙の記入と血圧、脈拍の測定を行った。その結果、施術後、収縮期血圧、脈拍は低下し、統計的に有意な差が見られた。拡張期血圧は低下したが、統計的な有意差は見られなかった。施術後、STAI状態不安のスコアは低下し、VASのスコアは上昇し、ともに統計的に有意な差が見られた。精油の種差による統計的な有意差は見られなかった。アロマトリートメントは産褥期の母親の気分や心理状態を改善する可能性が示唆された。

キーワード

産褥期の母親、アロマテラピー、トリートメント、不安、STAI、VAS

和カンキツ精油中のベルガプテン

著者名 沢村正義 長谷川香織 柏木丈拡 Nguyen Thi Lan Phi 和田真理 熊谷千津
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)30-37 (2009)

 和カンキツ25試料およびその他のカンキツ27試料の精油中のベルガプテン分析を行った。精油試料の多くは、天然組成にもっとも近い精油が得られる実験室レベルでの圧搾法で調製した。その他、超音波印加型減圧水蒸気蒸留油および市販の精油(圧搾油、水蒸気蒸留油)とした。分析方法はフォトダイオードアレイ検出器付きHPLCによって行った。和カンキツで高濃度のベルガプテンを含む精油は、カボス、ダイダイ、キヨオカダイダイ、ナオシチであった。ウンシュウミカン、ポンカン、ナツダイダイ、モチユ、ナオシチ、ユコウ、キミカン、キヨミではベルガプテンは検出されなかった。ユズは12試料について分析した。実験室レベルでの圧搾油では、高知産のユズ精油ではベルガプテンが微量か不検出であったが、京都産や韓国産の試料では10ppm以上のベルガプテンが検出された。ベルガプテン含量は産地によって異なることが示唆された。和カンキツ以外の精油では、ベルガモット、グレープフルーツ、レモン、ライムに100ppm以上のベルガプテンが検出された。しかしながら、レモンのユーレカおよびモナチェロ品種ではベルガプテンが検出されなかった。

キーワード

和カンキツ、ユズ、ベルガプテン、精油、HPLC

植物精油の直接接触および芳香暴露の抗インフルエンザウイルス作用に関する研究

著者名 中平比沙子 小尾信子 宮原龍郎 落合宏
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)38-46 (2009)

 ユーカリ・ラディアタ、ニアウリ、ローズウッド、ティートリーおよびラベンサラの5種の精油の抗インフルエンザウイルス作用を培養系と動物実験で検討した。MTT法による精油24時間直接接触のMDCK細胞に対する細胞毒性試験の結果、全精油が0.001%では毒性(-)、0.01%では2種精油(ローズウッドとラベンサラ)が(+)、0.1%ではユーカリ・ラディアタのみが(-)であった。そこで、毒性(-)濃度域を用い、本ウイルス愛知株感染細胞へ直接添加してみると、ティートリー(0.001%と0.01%)、ラベンサラ(0.001%)とユーカリ・ラディアータ(0.01%)は、対照ウイルス量のほぼ90%あるいはそれ以上のウイルス量減少を示した。さらに30%溶液を40μl添加するユーカリ・ラディアタの2回芳香暴露(40μl/12時間)によりウイルスプラック数は半減した。ユーカリ・ラディアタ(50μl×2回/ケージ/日)のマウス感染前7日間あるいは感染後8日間の芳香吸入群と無吸入群では、感染前吸入群が最も高い生残率を示した。これらより、3種精油(ティートリー、ラベンサラ、ユーカリ・ラディアタ)の直接接触、またユーカリ・ラディアタの芳香暴露は本ウイルス増殖を抑制することが明らかにされ、in vivoにおいてもユーカリ・ラディアタ芳香吸入に感染予防効果が期待できることが示唆された。

キーワード

精油、直接接触、芳香暴露、インフルエンザウイルス、治療・予防効果

歯科治療へのアロマテラピー応用が患者不安の改善に与える効果

著者名 吉田真理 北村知昭 藤本陽子 諸冨孝彦 永吉雅人 波多野圭紀 柿木保明 寺下正道
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)47-54 (2009)

 アロマテラピーは医療・福祉の現場で注目され、患者ケアや疼痛緩和への導入等、医療従事者によるアロマテラピーの効果が報告されている。われわれは歯科治療時における患者が持つ不安・緊張の軽減法としてアロマテラピーの有効性を検討した。アロマテラピー法としては吸入法を用い、ラベンダー精油溶液を浸潤させた湿式シートを治療時に患者の両目を覆うように静置し、芳香成分を治療中に吸入できるようにした精油吸入法を用いた。九州歯科大学付属病院第三総合診療科に来院した患者をアロマテラピー導入グループ(AT)と非導入グループ(NonAT)に分け、アンケート調査とProfile of Mood Status(POMS)短縮版を用いた治療前後の患者心理・気分変化の分析を行った。ATグループの大部分の患者(98%)は治療中リラックスが得られ、今後の治療時にも利用したいと回答した。POMSによる心理・気分変化の分析では、治療後の緊張-不安は両グループとも減少していたが、治療前後の変化量を比較したところNonATに比べATでは緊張-不安の減少量は有意に大きかった(p<0.05)。以上の結果から患者主体の歯科医療におけるアロマテラピーの有効性が示唆された。

キーワード

アロマテラピー、歯科治療、不安

日本産ユズ精油の機能活性についての検討

著者名 沢村正義 深田順一 熊谷千津 Nguyen Thi Lan Phi 水島直子 
堀夏子 和田真理 釜野聖子
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)55-65 (2009)

 実験用ユズ精油は、高知県産有機栽培ユズ果実から得られた圧搾油を使用した。ユズ精油の芳香機能特性、自律神経機能および月経前症候群に及ぼすユズ精油の影響について研究を行った。まず、芳香機能特性の解明のために、精油のGC-MS分析により成分組成を明らかにしたうえで、GC-Olfactometry(GC-O)により、機器分析と官能分析を併用して、ユズ精油の特徴的芳香成分を究明した。その結果、ユズ精油の主要成分はlimoneneで約77%、γ-terpineneで9.7%、myrceneで1.5%であった。また、linaloolは0.65%であった。ユズの香りに重要な成分として、α-terpineol、α-humulene、germacreneBなどが認められた。
 ユズ精油の自律神経への影響を血圧測定および心電図記録から解析した。比較のため、ラベンダー精油も実験に用いた。ユズ精油およびラベンダー精油ともに急性効果として血圧に変化を与えない状態で脈拍を減少させる効果を示した。ラベンダー精油のこの効果Holter心電図の記録から交換神経活動の抑制を介している可能性が示唆された。一方、ユズ精油の場合、吸入効果の心電図のLF/HFおよびHFの指標に有意の変化がみられなかったことから、そのメカニズムは不明であった。手術前日の入院患者の睡眠に及ぼすユズ精油の影響は、いつもどおりの睡眠に入ることができたこと、そして、目覚めの気分もよかったという結果が得られた。月経前症候群に関する実験では、被験者がユズ精油を就寝前に毎日2回吸入し、調査項目に記録した。3ヶ月間精油吸入と、自覚症状、水毒スコア、お血スコアから解析した。比較のために、ゼラニウム精油も同時に試験した。その結果、ユズ精油により、ゼラニウム精油と同様に、それらの症状の改善傾向がみられた1症例を経験した。

キーワード

ユズ精油、Citrus junos、芳香機能、自律神経、月経前症候群

基本精油のストレス緩和効果―印象と反応の関連―

著者名 阿部恒之 庄司耀 菊地史倫 樋口貴広
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)66-78 (2009)

 基本精油のストレス回復効果と印象の対応に関する生理心理学的効果の検討を行った。男女大学生79名を、統制(無香)群(17名)、ジャスミン(14名)、レモン群(15名)、ローズ群(12名)、バレリアン群(11群)、バニラ群(10名)の6群に配した。これらすべての群においてカラー・ワード・ストループテストを用いたストレス課題を実施し、この課題前後に前腕のTEWL(経表皮水分蒸散量)、唾液中アミラーゼ活性、覚醒感を測定した(経表皮水分蒸散量は、課題前に基準値およびテープストリッピング後のダメージ値を測り、課題後には回復値を測ることでTEWL回復率を求めた)。統制群以外の5群は、ストレス課題の間、それぞれの精油の香りを受動的に嗅ぎ続け、実験の開始時に香りの感覚・感情印象評価を、実験開始時と終了時に嗜好と食欲の評価を実施した。
 TEWL回復率について参加者間1要因(6水準)の分散分析を実施した結果、主効果が有意であり(p<.05)、バレリアン群のTEWL回復率が統制群より高かった(p<.05)。ストレス課題によって抑制された皮膚バリアの回復が、バレリアンの香りによって促進することが示された。ただし、印象・嗜好・食欲との関連はなかった。主観反応については印象と一定の関連があった。

キーワード

TEWL回復率、バレリアン、覚醒

基本的社会技能訓練前後のアロマテラピーによる抗ストレス効果の有用性

著者名 小森照久 影山むつみ 小瀬古隆
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)79-83 (2009)

 アロマテラピーを精神科医療に応用する手がかりを得るため、SSTにおける不安、緊張を緩和する試みを行った。1時間のSSTロールプレイの直前に20分間のウォーミングアップを行うが、ここで手浴とハンドトリートメントを行い、SSTの後で10分間吸入によるアロマテラピーを行った。唾液検体をそれぞれのアロマテラピーの前後に採取し、コルチゾールとIgAレベルを測定した結果では、SSTの前のアロマテラピーによってメンバーのストレスが軽減され、SSTの後のアロマテラピーによって早く落ち着くことが認められた。さらに対象を増やして検討する必要があるが、アロマテラピーが患者の緊張緩和に有用である可能性が示された。

キーワード

アロマテラピー、SST、ストレス、唾液中コルチゾール、唾液中IgA

研究ノート

アロマテラピーの活用における看護職員のメンタルヘルスにおけるセルフケア促進

著者名 福井トシ子 瀬戸僚馬 古賀良彦
文献名 アロマテラピー学雑誌9(1)84-87 (2009)

 看護職員は、不規則な勤務形態等によって心身のストレスを蓄積しやすい職種の一つであるため、自らのそのストレスを意識し、軽減できるセルフケア能力を高めることは非常に重要である。そのため、平成18年10月から平成19年3月にかけて看護職員等のストレス軽減を図るための効果的なアロマテラピーの方法を看護職員等に普及するための教育研修プログラムの開発を行い、同年4月から9月にかけて204人の新人看護職員に適用した。また、同プログラムに基づく研修受講者のうち、希望者53名をアロマテラピーによるトリートメント群、芳香浴群、および対照群に分け、生理学および心理学的方法による効果測定を行った。その結果、これらの方法による組織的なアロマテラピーの活用は、看護職員のメンタルヘルスにおけるセルフケアを促進する上で、一定の効果があることが明らかとなった。今後、看護職員をはじめとする医療従事者のメンタルヘルスを向上させる観点から、同様の取り組みの普及が望まれる。

キーワード

アロマテラピー、メンタルヘルス・ケア、看護職員のセルフケア